翔太が学園に戻ってきたのは、ちょうど季節の変わり目だった。校門をくぐると、懐かしい風景が広がっているはずだったが、翔太はどこか違和感を覚えた。以前の学園にはあふれていた自由で活気ある空気が、まるで見えない壁に押さえつけられたかのように消え失せていた。
「なんだろう、この雰囲気…」
静かな廊下を歩きながら、翔太は眉をひそめた。周囲の生徒たちは皆、無表情で足早に教室へ向かい、誰も目を合わせようとしない。かつては、廊下でもカフェテリアでも、どこかで笑い声が聞こえていたはずだったのに。
ふと、思い出したように顔を上げると、目の前にはルーカスとクロエの姿があった。二人とも、オーストリアからの留学生であり、翔太が転校する前からの親しい友人だった。特に音楽を通じて築いた絆が深かった彼らは、まさに文化の違いを超えて結ばれた仲間だった。
「翔太!」
とルーカスが声を上げた。翔太は嬉しくて笑顔で手を振り返したが、すぐに気がついた。二人とも以前よりもどこか元気がなく、まるで周囲の目を気にしているかのようだった。
「久しぶりだね!」
とクロエが笑顔を見せるが、その声には少しだけ陰りが感じられた。
「どうしたの?なんか二人とも元気がないみたいだけど…」
翔太は率直に尋ねた。クロエとルーカスは一瞬視線を交わし、それから小さなため息をついた。
「実は…ここ最近、学園の雰囲気が変わっちゃってさ」
とルーカスが静かに言った。
「霧人っていう生徒会長が厳しい統制を敷いているんだ。特に僕たち留学生は注目されがちで…ちょっと息苦しい感じがするんだよ。」
翔太は驚き、信じられない気持ちで二人を見つめた。
「そんなことになってたのか…。昔は、みんながもっと自由で仲良くしてたよね。」
「うん、そうだね」
とクロエがうなずく。
「でも、今は日本人の生徒も留学生も、互いに距離を感じているみたいで…。なんとか元に戻せたらいいんだけど。」
翔太は二人の切実な表情を見て、胸が痛くなった。音楽を愛し、共に夢を語り合った仲間たちが、こんなにも孤独を感じているなんて。ふと、彼の心にひらめきが走った。
「だったら、僕たちで音楽を使って、もう一度みんなを繋げられないかな?」
翔太の言葉に、ルーカスとクロエの目が輝きを取り戻した。
「音楽で…?」
クロエが問いかけるように微笑むと、翔太は力強く頷いた。
「うん。僕たちが音楽で心を通わせたように、他のみんなも同じように繋がれるはずだよ!」
ルーカスもやがて笑顔を見せ、
「いいアイデアだね、翔太」
と力強く言った。
「僕たちの音楽で、もう一度この学園に活気を取り戻そう!」
三人は、かつての学園の自由で温かい雰囲気を取り戻すための小さな一歩を踏み出すことを決意した。音楽を通じて仲間を作り、霧人が築き上げた「統一と秩序」の壁を越えていく。そして、学園に再び「響き合う音、繋がる心」をもたらすために、心を一つにして歩き始めたのだった。